エゴイスト 〜リョーマside〜 きっと寂しかったんだと思う。 部長に本当の気持ちを告白されて、周助に慰められて… それまで近寄らないって思ってたのに、心は簡単に周助の侵入を許した。 俺にとって必要なモノを、周助は持ってる。 …だから、今でも恐いよ。 何でも見透かしているような、その瞳が… 「周助、さっき携帯に電話があったんだよ」 「そうなの?…誰だろう」 お風呂から上がった後、俺達は周助の部屋で寄り添って居た。 お互いの存在を近くに感じたかったし、まだ眠る気にもならなかったから。 俺の言葉に周助は携帯を取りに少し離れ、そして驚いた表情をした。 「…リョーマ、携帯に出た?」 「うん。俺が出たら切れちゃったんだけど…」 何を警戒してるのか判らないけど、周助の顔は強張ったままだ。 …俺、変な事言ったっけ? 「電話の相手、英二みたいなんだけど…」 「!!」 英二先輩の名前を聞いた途端、体が震えた。 あんなにも乱暴にされて… 目が覚めたら先輩は居なくなってたけど、あの恐怖感だけは拭えない。 「リョーマ…?大丈夫?顔が蒼いよ」 「へ、いき…」 ダメだ、ダメだ。周助にバレたら…困る。 何で震えが止まらないんだ!俺は平気だ、周助と一緒に居るんだから… 「…何があったかなんて詮索しない。けど…辛いなら話して、ね?」 「周助…」 抱きしめてくれる周助の身体が温かくて、何故か泣きたくなった。 俺が黙ってる事は、周助を傷つける事になるのだろうか? でも話したら…周助が離れて行ってしまう気がして怖い…。 「リョーマ、僕達は似た者同士だ。だから…傷を舐め合っても良いと思う」 「…」 「リョーマが心の傷を曝し出してくれないと、僕も君に傷を見せられない」 なんて幼稚な駆け引き。 「君がやらないなら僕もやらない」…そんな駆け引きは、ずっと昔に止めてしまったのに。 でも周助が言うと、それは立派な【交渉】になる。 どんな幼稚な言葉だって、彼は真剣に捉えているから。 「…周助…」 「何?」 「俺が傷を曝しても…俺の事も、英二先輩の事も嫌いにならないって約束出来る?」 「………勿論だよ」 周助がにっこりと微笑むから、俺は安心して話した。 英二先輩に好きな人を告白された事。 俺の無神経な発言で英二先輩を怒らせてしまった事。 …英二先輩に乱暴にされた事。 「…英二、が…?」 「…」 俺はただ頷くしか出来ない。…嫌いにならないで、なんて無理な約束だったかな。 どちらか嫌いになるのは目に見えている。 ううん…どっちもかもしれないけど。 「そうか…。リョーマ、ごめん…」 「?」 「英二がそんな事をしたのは、僕に責任がある…」 「…そんな事な…」 そんな事ない。そう言おうとして遮られた。 意思の強い目。吸い込まれてしまいそうな錯覚を起こす。 「あるんだ。僕が英二を半端な扱いで終わらせてしまったから、今…英二は混乱してるんだ」 「…周助は、英二先輩が好きなの?」 周助はまだ、言葉を濁したままだ。 俺の事を好きだとも愛してるとも言ってない。 もし英二先輩に言ってたら、気が狂っちゃうかもしれない… 「好き…とは違う。その所為で、僕は英二を傷つけた」 周助は遠い目をして、ボンヤリと空間を見詰めた。 …少し安心した。英二先輩が「特別」でなくて。 「君はちゃんと傷を見せてくれた…けど、僕はまだ見せられない…」 「?!何で…」 「まだ、ダメなんだ…。気持ちの整理がつかない…」 周助は俺の傍に来ると、頬に小さくキスをした。 それは許しを欲している子供のように見えた。 「…いつかは話してくれるよね?」 「うん…」 「なら、いいよ。周助が話せる時になったら、教えて」 そう言うと、俺はとっととベットに潜り込んで目を閉じた。 周助もベットに入ってきたけど、何も話さない。 それでいい。今聞いたら、いけない気がする。 多分、俺が周助に話した以上に、彼の傷は複雑だから。 俺に癒す力があればいいのに… そう願いつつも、心のどこかで周助と一線引いている自分が憎らしく思えた。 |